インプラントのトラブル

インプラントトラブルの6つの事例と原因

インプラントのトラブルは、歯科医師の不適切な診断や治療のほか、不十分なメンテナンスによって起こります。その中には、リカバリーが可能なトラブルもあれば、対処が遅れると修復が難しくなるものがあります。過去に報告された6つのトラブル事例と原因を知ることで、正しいインプラントについての知識を身に付けましょう。

1.インプラントが骨を突き抜けた

インプラントを埋入した際に、インプラントの先端部分が骨を飛び出してしまうことがあります。さらに、上顎の奥歯のインプラントで起こった事例に、インプラントが固定されずに骨を突き抜けて、鼻の両脇にある「上顎洞(じょうがくどう)」という骨の空洞に、インプラントが落ちてしまったというものがあります。

トラブルの原因

手術前の確認が不十分だった
歯科用CT

このトラブルの原因は、インプラント手術を行う前に、骨の幅や高さの診査・診断がしっかりと行われていなかったことです。歯科用CTで撮影した3D画像をもとに、顎の骨の状態を把握し、インプラントの位置や角度をシミュレーションしておくことで、このトラブルは確実に防ぐことができます。

骨造成の失敗

上顎にインプラントを埋入する際、骨の高さが足りない場合に行われる「サイナスリフト」という骨造成が失敗すると、患部に填入した骨や補填材が定着しないため、インプラントそのものが根付かきません。そのような状態では、ちょっとした力が加わっただけでも、インプラントが骨を突き抜けてしまうことがあります。

2.腫れや痛みがおさまらない

インプラント手術では、歯肉を切開してドリルで骨に穴を開けるため、一般的に手術後の2~3日は抜歯と同じような痛みを感じることがあります。特に、骨造成を行った場合は腫れがひどくなります。もしも以下のような症状がみられる場合は、トラブルが起きている可能性が高いことから歯科医への相談が必要です。

  • 痛み止めの薬を飲んでも治まらないような強い痛みがある
  • 腫れや痛みが1週間以上続いている
  • 鼻血や鼻づまりなど、鼻に違和感がある

トラブルの原因

手術中にドリルで穴を開けた際の過熱(オーバーヒート)
歯科ドクターユニット

インプラント手術では、埋入する穴をドリルで開ける際に、注水による冷却が不十分だったり、ドリルを強く押し付けてしまうと、摩擦熱が生じて骨が火傷を負ったような状態になります。このトラブルは、ドリル扱う技術が未熟な歯科医師によるインプラント手術で起こりやすい事例だといえます。

歯性上顎洞炎

上顎に埋入したインプラントの周囲に感染した細菌が、鼻の外側にある上顎洞まで広がって炎症が起こすのが「上顎洞炎」です。左右のどちらか一方で起こるのが特徴で、目の下の部分の腫れや痛みのほか、鼻水・鼻づまりなどの症状が見られるため、耳鼻科の医院での治療が必要になることがあります。

3.インプラントが抜け落ちた

インプラントの模型

インプラントは、歯槽骨に埋め込んだチタンという金属が骨と結合することで、しっかりと根付きます。ところが、手術中や手術後に何らかの原因で骨との結合が妨げられると、インプラントが結着せずに抜け落ちてしまうのです。インプラントは脱落だけでなく、動揺がある場合も結合しない可能性が高いといえます。

トラブルの原因

ドリルで骨に穴を開けた際の過熱(オーバーヒート)

ドリルが回転する際の摩擦熱によって骨火傷をおこすと、インプラントとの結合がうまくいかずに、抜け落ちてしまうことがあります。特に、骨の質が硬い場合は削りにくいため、ドリルを回転数が過度になってしまったり、ドリルを強く押し付けてしまうことで、オーバーヒートが起こりやすいといわれています。

埋入する穴が大きすぎた

ドリリングの際に、埋め込むインプラントに対して大きな穴を開けてしまうと、当然のことながらインプラントは骨と結合せずに抜け落ちてしまいます。オーバーヒートと同様に、歯科医師のドリリングの技術不足によって起こるトラブルです。

術後に無理な力が加わった

インプラントに大きな力が加わると、骨との結合が妨げられてインプラントが抜け落ちてしまいます。舌や指でインプラントに触れたり、歯ぎしりや食いしばりなどが原因として挙げられるほか、インプラントの位置や角度が不適切な場合、インプラントに無理な力がかかることがあります。

インプラント周囲炎

インプラント手術の際に器具や設備が不衛生だったり、手術後のメンテナンスや清掃が不十分な場合、インプラントの周囲組織が細菌に感染する「インプラント周囲炎」を引き起こします。歯周病と同じように、症状が悪化すると、インプラントを支える骨の破壊が進んでインプラントが抜け落ちてしまいます。

4.しびれや麻痺が残った

インプラントの外科手術後の数日は、痛みとともに患部の周辺にしびれを感じることがありますが、しびれが1週間以上続く場合や、「思うように唇を動かせない」「水を飲む際にこぼしてしまう」などの異常が見られる場合は、神経の圧迫や損傷による感覚障害が起こっている可能性が高いといえます。

トラブルの原因

下歯槽神経の損傷や圧迫

下顎にインプラントを埋入した際、骨の中を通る「下歯槽神経(かしそうしんけい)」という神経が圧迫されたり損傷を受けると、しびれや麻痺が続くことがあります。下歯槽神経の麻痺は、治療を行った左右いずれかで起こるのが特徴です。

5.歯ぐきが痩せてインプラントが露出した

歯がなかったため痩せてしまった顎の骨のレントゲン写真

インプラントを埋入した部分の歯肉に十分な厚みがない場合や、インプランの埋入後に骨や歯肉が痩せた場合に、インプラントと人工歯を連結するアバットメントやインプラントそのものが露出することがあります。

特に、最も人目につきやすい前歯のインプラントは、歯肉が後退することによって「隣の歯よりも長く見える」「金属が透けて歯肉が黒ずんで見える」などの、審美的な問題が起こりやすくなります。

トラブルの原因

インプラント周囲炎

インプラント周囲炎の悪化によって、歯肉退縮が進むことで歯ぐきが後退しはじめます。さらに、インプラント周囲の骨破壊も進行することから、歯ぐきが痩せたように見えるのです。軽度のインプラント周囲炎なら、清掃や殺菌によって症状を軽減できることから、早めの治療が必要だといえます。

無理な歯磨きによる歯肉退縮

歯周病やインプラント周囲炎のほか、無理なブラッシングを続けることによって歯肉が傷つけられることでも歯肉の退縮が起こります。そのため、正しいブラッシングの知識を身に付けて、間違った歯磨きによる歯肉退縮を防ぐ必要があります。さらに年齢とともに代謝が落ちることで、歯肉は徐々に痩せていきます。

6.歯ぐきや鼻から膿が出る

インプラントの周辺組織で炎症が起こると、化膿によってインプラントと歯肉の間から膿が出る場合があります。また、上顎に埋入したインプラント周辺の化膿が進むと、炎症がさらに上に広がって、インプラントや歯ぐきだけでなく鼻から膿が出ることがあります。

主なトラブルの原因には、「インプラント周囲炎」や「歯性上顎洞炎」があげられます。